2018年のある日、つかさくんの世界は突然変わりました。
風邪をひいたあと、咳が長引いていたのがきっかけだったのか、
それとも別の原因があったのかは、今でも分かりません。
——仕事中、突然、世界の音が“爆音”に変わってしまった。
それは「聴覚過敏」という症状でした。
日常の何気ない音が、つかさくんには耐えがたいほど大きく響く。
レストランのざわめきも、電車のアナウンスも、救急車のサイレンなんてもう最悪。
彼は耳栓を手放せなくなり、外出もままならなくなっていきました。

複数の耳鼻科を受診しても原因は分からず、精神科を勧められました。
精神科で処方された「リボトリール」という薬。
それを飲むと、ほんの少しだけ耳の症状が和らいだそうです。
「抗うつ薬も効くかもしれない」と言われ、
何種類か試してみたけれど、どれも効果はなく、結局やめました。
リボトリールだけが、彼の“音の地獄”を少しだけ遠ざけてくれた——
でも、その選択が、のちに取り返しのつかない後悔へとつながることを、
このときの私たちはまだ知りませんでした。