ギタープリンスの夫は、うつでギターも会社もやめました

ギタープリンスと呼ばれ、みんなから愛さた夫はうつ病、不安障害になり会社もギターもやめました。

第13話:つかさくん、真っ青からの大逆転!涙と拍手に包まれた市役所ライブ

「音楽って、こんなにも人の心に届くんだ——」
私たち夫婦ユニットがこれまでに経験した数々のステージの中で、
今でも胸に深く刻まれているのが、
つかさくんの実家がある市役所で行ったライブです。
市役所内の大きな広間でのステージは音響設備ゼロ。
まさに手作りの挑戦でした。
彼の後輩にカホン(打楽器)をお願いし、
役所の担当者と何度も打ち合わせを重ねながら、
ケーブル、マイク、モニター(音の返し)などをすべて自分たちで準備。
まるで文化祭のような熱量で、ステージを一から作り上げました。
ところが当日、機材のひとつを忘れてしまい、つかさくんは顔面蒼白。
パニック寸前の中、なんとかリカバリーしてステージへ。

すると、目の前には——なんと100名を超えるお客様が!
年配の方が多いと聞いていたので、昭和歌謡を中心に選曲。
石原裕次郎さんの名曲では、会場全体がひとつになって大合唱。
約40分間のステージは濃密なひとときでした。

終演後、お客様をお見送りしていると、涙を流しながら握手を求めてくださる方も。

「感動しました」
その一言が、つかさくんの繊細な心にじんわりと染み渡り、
私たちの胸を熱くしました。

彼のご両親や地元の知人も駆けつけてくれて、
「本当に素晴らしかった」と言ってもらえたことも、忘れられない思い出です。

この日、私たちは確信しました。
人の心に響く演奏こそが、音楽の原点だと。

今では、彼のギターの素晴らしい音色を聴くことは叶いません。
病気が全てを奪ってしまった。
そのかわりにあの日のステージで響いた音が誰かの心に、
今も生き続けていると信じたい。
そう思わずにはいられません。
そうでなければあまりに哀しすぎる。