「音楽って、こんなにも人の心に届くんだ——」
私たち夫婦ユニットがこれまでに経験した数々のステージの中で、
今でも胸に深く刻まれているのが、
つかさくんの実家がある市役所で行ったライブです。
市役所内の大きな広間でのステージは音響設備ゼロ。
まさに手作りの挑戦でした。
彼の後輩にカホン(打楽器)をお願いし、
役所の担当者と何度も打ち合わせを重ねながら、
ケーブル、マイク、モニター(音の返し)などをすべて自分たちで準備。
まるで文化祭のような熱量で、ステージを一から作り上げました。
ところが当日、機材のひとつを忘れてしまい、つかさくんは顔面蒼白。
パニック寸前の中、なんとかリカバリーしてステージへ。
すると、目の前には——なんと100名を超えるお客様が!
年配の方が多いと聞いていたので、昭和歌謡を中心に選曲。
石原裕次郎さんの名曲では、会場全体がひとつになって大合唱。
約40分間のステージは濃密なひとときでした。
終演後、お客様をお見送りしていると、涙を流しながら握手を求めてくださる方も。

「感動しました」
その一言が、つかさくんの繊細な心にじんわりと染み渡り、
私たちの胸を熱くしました。
彼のご両親や地元の知人も駆けつけてくれて、
「本当に素晴らしかった」と言ってもらえたことも、忘れられない思い出です。
この日、私たちは確信しました。
人の心に響く演奏こそが、音楽の原点だと。
今では、彼のギターの素晴らしい音色を聴くことは叶いません。
病気が全てを奪ってしまった。
そのかわりにあの日のステージで響いた音が誰かの心に、
今も生き続けていると信じたい。
そう思わずにはいられません。
そうでなければあまりに哀しすぎる。